コーヒー趣味仲間のぶいめろさんと一緒に、昨年12月にオープンした代官山にあるコーヒーショップ、POUR OVER COFFEE STAND(POCS)にいってきました
google map とにらめっこしながら「この辺だと思うんですけど」と不安になりながら細い道をくねくねと進んでいく。市街地の中ほどに入りこむような路地を進んだ先にその店は佇んでいた。文字がドリップを表しているイラストになっているのが非常にユーモラス。
お店としての敷地が大きくはなく、応対するカウンターとその前にカウンター席2つ、テーブルのある席がひとつと、2組の客が来るだけでいっぱいになる。テイクアウトがメインのようだ。店主はとてもフランクに話しかけてくれて「このお店はどこで知ったの?」「どこの豆が好き?」といった軽い質問の流れから、ぶいめろさんには深煎りの、自分は浅煎りのコーヒーをということに。この時点でメニューとかを見たわけではないので、毎回今相手によさそうなコーヒーというのを選別しているのかもしれない。値段がすぐにわからないという点はちょっと不安になった。
コーヒーを淹れてくれている間も、ひとつひとつの作業をみながら気になることについてこちらから質問をいろいろ投げかけさせてもらった。今思うと作業のじゃまになっていたんではないかと気がかりになっている。そんな心配を想起させないような、フレンドリーな受け答え。そのやり取りの中で、淹れ方の考え方として新しく得た知見は多かった。
- チャフは雑味の原因になる
- 静電気でひっつく粉はチャフや微粉なので、むしろミルにひっついてくれてありがとうという気持ち。対策はしない
- 深煎りにはネルドリップを使うことで油分の風味が得られる
- ネルの保存方法の一つとして、洗ったネルをジップロックに入れて冷凍室に入れておく。使用するときに水で流す。冷凍室に入れておくことで菌の繁殖を防ぐことができる
- ハンドピック大事
- 温度を下げることで甘みを引き出す。2度ずつぐらいで調整
- パナマゲイシャのいいものは、豆自体のポテンシャルが違う(実際に飲み比べをさせてもらいインパクトの違いを体感した)
そして提供していただいたコーヒーは、エチオピアの Heirlooms という品種の豆。スペシャリティコーヒーのECモールのHeirroom と似ているけれど関係はないと思う
明るい香りが広がる紅茶のような印象のコーヒー。カップから香るインパクトが想像以上で「おっ」と感嘆の声が思わず漏れた。ゲイシャを思わせるような華やかさではあるが、花を思わせるフローラルな香りに加えて、柑橘系の香りも含まれているような、重層的な香りが印象深い。最初口にしたときの味の軽さというのか、非常にスッキリとしているのだけれども、心地よい酸味を感じさせる味わいがとても好印象だった。すごく美味しい。提供のされ方にも工夫があり、できたコーヒーをいっきにカップに注ぐのではなく、少しカップに注いで残したコーヒーは別容器(ストック)に蓋をして、カップが空になったらまた注いで飲むという形。店主曰く、香りが飛ぶのを防ぐという目的があるとのこと。たしかに野外で飲んでいるということもあり、ゆっくり飲んでいると香りが弱くなっていくのだろう。また、冷めると香りも立ちにくくなるしね。急須のようなものを使ってもいいのかもしれない。こういった細かい飲み方についてもこだわりがあり、それらについて聞いたら気さくに教えてくれる店主の気概というのが素晴らしい。
自分たちがカウンターでコーヒーを飲んでいると、もう一組のお客さんがお店にやってきた。場所がかなり特殊な位置にあり小さな店舗であるだけに、別のお客さんがすぐ来ることに驚いた。常連のお客さんなのか「今こんな豆があるよ」と、いろいろななめの入った袋の詰まったカゴをまるっと手渡していた。一律のメニューとかから決めるのではなく、その時揃えられた豆から選ぶようなスタイルらしい。2人のお客さんが2種の豆をそれぞれ選んでいたのだが、そのうちの一つが自分が今まさに飲んでいる豆と同じものだった。店主曰く、ちょうどさっき手に入れた豆なんだそうで、淹れ方の調整をしている最中のものを自分は頂いてた。そしておもむろに店主から「ちょっといいかい」と自分に淹れてくれたコーヒーのストックをつまみ上げ、少しだけ別のカップに注いでそのお客さんに差し出した。「こんな感じの豆だよ」と試飲をを促すというのもなかなか新鮮なやり取りで、自分も「どうぞどうぞ」と自然に促していた。2回目となるエチオピアの Heirloomsを用いたコーヒーは、お湯の温度を2度下げていれるという調整をし、すこし甘みを引き出すというレシピ。淹れたコーヒーをあとに来たお客さんに提供すると同時に、少し注いだカップを自分にも渡してきた。なんと飲み比べをさせてくれたのだ。たしかに酸味がマイルドになり甘みを感じやすくなっている。2度の温度差の影響を体感できたのは自分にとっては嬉しい経験だった。浅いりの豆を使用する際、90度あたりの温度で淹れていることが多かったが、少し温度を下げて試してみたくなる。
2人のお客さんが選んだ2種の豆のうちもう一つが、高級豆として有名なパナマゲイシャの豆ということもあり、ゲイシャの話題に。その中で自分が「値段ほどの風味の違いをまだ感じ取れなくて」といった発言をしたのだが、そのときちょうどパナマゲイシャのコーヒーが入れ終わったタイミングも合ってか「これを飲んでみて」とまた飲み比べ用に少量注がれたカップが手渡された。驚きのあまり受け取るのをめちゃくちゃためらった。変なこと言ってすみませんとひたすら申し訳ない気持ちになる。それでも興味津々ではあるのでお言葉に甘えて試飲させていただくことに。これはすごいわ。口に含んだ量に対して広がる風味のどあいに明らかな差を感じる。風味の密度というのか、インパクトが明らかに強い。それでいて尖っているというような悪い印象がまったくない。淹れている人の技術というのも当然あるのだろうけれど、コーヒー豆のもつポテンシャルの差というのを確かに実感できる。高値がつけられるわけだ。店主いわく「ガンダーラはパナマゲイシャに通ず」と表現されていたのも印象に残っている。良い豆というのを探し求めていくと、誰しも最後にはパナマゲイシャにたどり着くのだそうだ。
十分に話を聞きコーヒーも飲み終わったところで、ぶいめろさんとともに心配になったのはお値段。注文時にもメニューみたいなものはなく、値段についての上方がまったくないなか、話の流れでいろいろと試飲させていただいたりしたため、けっこう払わないといけないのではないかと急に不安になった。そして店主から言い渡された会計は1500円。コーヒー1杯の値段としては高いとなるかもしれないが、いろいろ飲ませてもらった身としては「これだけでいいんですか?」と呆気にとられるものだった。パナマゲイシャも飲んでますよ?
店主に何度もお礼を言いながらお金を渡し、お店をあとにした。満足感にあふれ、誰かに教えたくなるお店であった。帰り際にぶいめろさんと「このお店はすごい」と興奮気味に話ができたのもいい思い出。なかなか場所が遠いので頻繁に通うのは難しいが、コーヒーが好きな人にはぜひともいってみてほしい。