1つ前の記事の続き
「ころぼっくるひゅって」でこの日の目的はほぼ達成されたと言ってもいい。ただここまできたならと、車山周辺を散策しつつ車山登頂を目指すメジャーどころのハイキングルートをまわってみることにした。
まず散策したのは車山湿原に向かうルート。このときちょうど、6月の高原を代表する花でもあるレンゲツツジが見頃を迎えており、広い緑の絨毯の中に点々とオレンジの花が群生していた。高原は花のイメージがあまりなかったので、これほど色が散りばめられている状態にとても驚かされた。空の青、雲の白、高原の緑、そして鮮やかなオレンジ。絵画の中にいるような、日常では見られない景色。上空の風が強いのか、雲に太陽が隠れたりまた現れたりという陽射しの明暗もころころと変わり、様々な表情を見せてくれたのがとても印象深かった。
バスですでに車山山頂に近い標高までは登っている。事前に見たガイドでも山頂まで20分と書いていた。ハイキング気分で登りきれるだろう。そんな甘い考えは簡単にくじかれた。傾斜はさほどないものの、40分ほどしっかりと歩いたと思う。道ははっきりとしていたものの、大きめの岩が足場をなしているという箇所がいくつもある。ちゃんとした靴でなければ足への負担は相当なものだろう。登り始めこそレンゲツツジがちらほら見かけられたが、登るにつれ徐々に明るい色は山からなくなる。上を見ると空と高原のみだが、下方をみれば、先ほどまでいたころぼっくるひゅってを遠くに眺めつつ、斜面に伸びる灰色のビーナスライン、その道に沿って車やバイクが時折大きな排気音をたてながら進んでいく。ミニチュアを見ているような光景で、自身がいる高さを実感できる景色。頂上までの道のりが、まっすぐ進むというよりは大きく蛇行しながら緩やかな傾斜で登り進むものなので、下方に見える景色も進むにつれ変わってくる。360度カメラで録画しつつ、気になる場面があればスマホでも写真を撮ったりしながら、ゆったりとした足取りで頂上を目指した。
大きな岩が地表にたくさん見え始めてからしばらく登ると、大きな白い球体を乗せた建物が見えてくる。これは「車山気象レーダー観測所」という建物で、これが頂上の目印になっているようだ。
頂上の空間は非常に広く、くつろぐためのテラススペースが大きく設けられている。まずはぐるっと頂上の縁をなぞるようにまわってみる。ここまでの景色にくらべより遠くが見える。天気が良いなかで厚みのある雲がかかっているので、山肌に雲の影がはっきりと現れ、まだらな模様を作り出しているのがとても綺麗。景色に見とれていると時折風に煽られる。天気の変わり目が近いからなのか風が強い。帽子を被って登っていたが、飛ばされてしまいそうだったので鞄にしまった。一通り景色を堪能したところで、今日のもう一つの目標を遂げるため、準備にとりかかった。
朝起きて家を出る前に、コーヒーを淹れて水筒に入れてもってきていた。自分の淹れたコーヒーを山の上で飲む。コーヒーを自分で淹れ始めたときから、アウトドアでもコーヒーを楽しみたいという思いを抱いてた。その最初のステップとして、まずは家で淹れて持って行く、ここ車山でそれが達成できた。このときもっていったコーヒーは、東京コーヒーフェスティバルで購入した ignis のコーヒーフィスティバルブレンドの豆を使用して淹れたもの。スパイシーな刺激的な風味の中に、ラベンダーを想起させるフローラルさを兼ね備えたコーヒー豆。その香りの広がり方はとてもインパクトがある。時間経過による風味の変化も大きなものであったので、遠出するにはあまり向いていなかったかもしれないと、頂上で風味を確認したとき感じた。それでもこのコーヒーを頂上で飲んでいる間は至福の時間だった。
頂上でしばらく景色とコーヒーを堪能したところで、今度は来た方角から反対の方角に進んで下山していく。実は車山の頂上には、車山高原側からリフトで登ることができる。頂上で写真を撮る人の中にヒールを履いた女性がいたので、このリフトを最初知らなかった自分は「その靴でここまできたのか?」と驚きの表情でその女性を眺めていた。近くに車山スキー場があるのでリフトがあることは想像できたが、思っていた以上に頂上に近い場所まで続いていた。車山肩からの経路は緩やかな斜面であったのに対して、車山高原からの道は非常に急で、頂上付近は足場の狭い階段となっている。時間にも余裕があったので、歩いて散策しようと階段を降り始めたのだが、足場の狭さと傾斜を体感すると「リフトでもよかったかな」と思わずにはいられない。前方を進む家族連れは幼い子供もいて、この急な階段を子供に歩かせるのかという驚きと、子供に対する称賛がないまぜになった気持ちを抱いたりもした。急斜面というのは景色も広く見渡しやすいという一面もあるのだが、足元に注意を向けなくてはならず、なかなか景色をゆっくり拝むことができない。片手に360度カメラを握っているというのも足元が不安になるひとつの要因だっただろう。今度はマウントとかも考えないとな。
急な斜面を降りていたことで、すぐにレンゲツツジが現れるぐらいの高さまで降りてきた。おそらく雪のシーズンでは林道コース(あるいは迂回コース)として用いられているのであろう道を進んでいく。ゲレンデとしての景色はどうなんだろうかという想像をしながら降りると楽しい。すこし傾斜がなだらかになったかなというところで、TOPS360°というレストランがあったので一度休憩を取ることにした。下り坂は体力よりも関節への負担が気がかりなので、早めの休憩は大事。
動画投稿者の主食(?)となるソフトクリームとコーヒーをいただく。ソフトクリームのコーンの部分がラングドシャのクッキー生地のような素材になっており、少ししっとりとした食感だったのが新鮮。そしてコーヒーはフレンチプレスの器具で提供されており、深煎りと中煎りのどちらかを選べるというのもこだわりを感じる。ソフトクリームとコーヒーがともにコクのある風味をもっているので、重厚な味わいが口の中にしっかりと残るのが印象的だった。ここは事前に寄る予定はなかったものの、時間的に余裕があったことでいい発見ができた。今度はぜひとも冬のシーズンに訪れたい。
下に降りていくにつれ、なにやら賑やかな音楽が聞こえてくる。どうやらこの日、音楽イベントが車山高原でやっており、ハイキングコースもこの期間だけ変わっていた。正直後半はあまり見どころというものはなく、しかもかなり賑やかな雰囲気で、自然を堪能するといった感じではなかった。大きな荷物を背負った自分の見た目もだいぶ場違い感があったので、ちょっと居心地は良くなかったので、そそくさとバス停の待合室に隠れるように入り込んだりした。車山湿原をぐるっとまわるようなコースが良かったかもしれない。
車山高原からバスに乗り上諏訪駅まで戻る。車山高原のバス停にいるときから旅の終わりを意識してしまい気持ちが徐々に静まる。行きのトラブルが起こったときはどうなるかとも思ったが、今はとにかく満たされたという気持ちが大きい。ころぼっくるひゅっては想像以上の環境と食事、車山までの景色も見応えがあった。体を動かすのが好きな自分にとっては心地よい程度の負荷のハイキング。天気も恵まれ、総じて最高の1日と言える旅だった。こうして1日を上諏訪駅の足湯につかりながら振り返ることができるのも最高。来たときに「駅構内にあるのか」と驚くとともに「帰りに時間があれば寄ろう」と思っていた。今度来るときは替えの靴下を持ってきておくと良さそうだ。こういった旅先のちょっとした巡り合いというのが旅の醍醐味でもある。
360度カメラの録画は「どんな映像が撮れたのかな」という帰ってからの楽しみにもなっている。スマホのアプリなどを使えば道中の時間があるときに確認することもできるのだが、電池や手間の都合もあり帰ってからまとめて確認しようと判断していた。しかしこれが仇となる。専用のソフトで動画を開いて、色んな方向の景色を確認しようとしてみるが、画角が変えられない。よくよく確認してみると、なんとシングルカメラモードで録画してしまっていたのだ。これはスマホで動画を撮るのと同じようなもので、360度カメラで録画しているのに360度を撮っていないという、なんとももったいないことをしてしまっていた。数本撮った中で1つだけ360度カメラモードになっていたが、他はすべてシングルカメラモード。山頂の展望台からの映像もシングルカメラモード。もっと広く映せるはずの景色も、一方向で切り取ったものになってしまっている。なんてことをしてしまったのか。まぁこれはこれで再走するモチベーションにはなりますね。車山湿原や他の登山道など、車山登頂は複数回楽しめる場所だと思うので、ポジティブに捉えるとしよう。コーヒーを山頂で飲むなど、初めてのことも多く、できたことや新しい課題など、今後やりたいことがよりクリアになったと感じます。録画のトラブルを含めても、この日は本当に楽しい1日でした。